ホンダ新型アコード『伝統のリノベーション』セダンの、そしてアコードの刷新を掲げて登場した10代目の走りはどうだ?
- 2020/04/17
- ニューモデル速報
これまでのイメージを改めて、アコードの在り方を捉え直す。
そうして生まれた十代目アコード。日本市場への投入は他地域より後となったがその分熟成を重ねた状態で投入されることになった。
REPORT●山本シンヤ(YAMAMOTO Shinya)
PHOTO●平野 陽(HIRANO Akio)
※本稿は2020年3月発売の「新型アコードのすべて」に掲載されたものを転載したものです。
あらためてアコードの価値を見つめ直す十代目
1976年にシビックの兄貴分として登場したアコード。初代から世界戦略車としての役目も担っており、二代目は日本車で初めてアメリカで現地生産を行なったモデルとしても有名だ。これまで120を超える国と地域で発売、累計販売台数は2000万台を超える販売実績からもわかるように、フィットやシビックと並ぶ「ホンダの大黒柱」の一台であることは間違いない。世界戦略車である故に、六〜八代目では仕向地に合わせてつくり分けが行なわれ、複数の車体が用意されていた。
日本市場ではリトラクタブルヘッドランプが印象的だった三代目(CA)、モータースポーツでも活躍した五代目(CD)、ホンダ製ヨーロッパ車と言われた七代目(CL)が日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞するなど、クルマとしての実力は高いレベルにあるが、どこか「地味」、「コンサバ」な印象が拭えなかったように感じる。特に直近の10年の影の薄さは販売台数にも表れていた……。
実はアコードのメインマーケットである北米/中国市場では販売台数は好調ながらも、日本市場と同じような悩みを抱えていた。開発責任者の宮原哲也氏は「ユーザー調査をするとすべての項目で80点以上を獲得していますが、評価は『それ以上でもそれ以下でもない』と。それは特長がないことの裏返しでした。またユーザーの高齢化も顕著で、このままではいずれアコードブランドが消滅してしまうという危機感も。そこで十代目はその流れを断ち切る必要があった」と語る。要するに「ベストセラー=保守的」からの脱却だ。
そこで十代目となる新型はアッパーミドルセダンという立ち位置は不変ながらも、「若返り」をコンセプトに大きく刷新された。ちなみにこの十代目、北米/カナダでは17年、中国では18年から発売されており、日本市場には遅れての導入となる。恐らく導入に至るまで紆余曲折あったと思うが、フラッグシップのレジェンドは旧態化している上に元はアキュラブランドのモデルのお化粧直し版のため立ち位置は曖昧、新参者であるクラリティだけでは荷が重い。となると、「やはり、日本市場にアコードは必要‼」という流れだったと思われる。
そんな新型アコードの若返りを最も象徴するのはエクステリアだろう。歴代モデルを振り返ると「ザ・セダン」というボクシーなシルエットのモデルが多かったが、新型は歴代モデルのクリーンなイメージを継承しながらも、ワイド&ローをより強調したスポーティな4ドアクーペルックを採用。個人的にはどことなく英国アコードこと「アスコット・イノーバ」を思い出すフォルムだ。
ボディサイズは「また大きくなったのかよ?」と言う人もいると思うが、実は全長4900(マイナス45㎜)×全幅1860(プラス10㎜)×1450(マイナス15)㎜とホイールベース2830(プラス55)㎜と全幅以外はむしろ小さくなっている。Aピラーを100㎜後方に移動したことでFFながらFRのようなプロポーションバランスを実現。この辺りはFFミッドシップ・レイアウト採用の初代アコードインスパイアの精神を受け継いだのだろうか!?
デザイナーが「走りの声に耳を傾けながら『走りの視覚化』を追求した」と語るように、スポーティで伸びやかなスタイルに仕上がっている。ただ、クロームメッキを多用するところやホイールデザインなど細部の処理は個人的にはアンマッチな感が否めない。プレミアム層を獲得したい気持ちもわからなくないが、欲張り過ぎてキャラクターを曖昧にしているような気がする……。
インテリアはコンサートホールをイメージ。水平基調でデザインされたインパネまわりとワイドな運転視界によりシンプルかつ爽快感の高い空間に仕上がっている。見やすくレイアウトしたインターフェイス、三連ダイヤルのエアコンパネルを含めた操作性の高いスイッチ類など機能性はとても高い。質感も高いレベルにあるが、どこか事務的なメーター表示、シボの使い方、カップホルダーのレイアウト、最新モデルなのに小さなナビ画面、コンサートホールをイメージしながら普通のオーディオのみの設定などなど、細部のツメの甘さは非常に勿体ない。
シートポジションは従来モデルよりもヒップポイントはマイナス25㎜、ヒールポイントはマイナス10㎜と低めになっているが、これはセダンの本質を見直した結果で安定感ある運転姿勢を実現。シートは柔らかいのにシッカリしている不思議な感覚で、どちらかというと形状ではなく身体全体を包み込む感じでホールドするタイプだろう。運転席から助手席の操作が可能なスイッチがシートバックに装着されるが、これは法人需要を見込んでいるためだろうか!?
居住性はエクステリアを見ると悪そうに見えるが、実際はボディ骨格の変更やホイールベース延長も相まって、後席まわりの足元や膝まわりのスペースはクラストップレベル。さらに視覚的な広さ感はそれ以上だ。頭上は筆者(身長170㎝)が座ってもこぶしひとつ分のスペースが確保されている。さらにトランクルームはハイブリッドセダントップクラスとなる573ℓを実現している。
日本仕様のパワートレーンはハイブリッド1本に統一
パワートレーンは海外向けには2.0ℓ直噴ターボ+10速ATも用意されるが、日本向けはハイブリッド「e:HEV」のみの設定だ。従来モデルでは「スポーツハイブリッドi-MMD」と呼ばれていたシステムだが、新型フィットの導入を皮切りに名称が一新されている。
このシステムをあらためておさらいすると、基本はエンジンが発電した電力でモーターを駆動させるシリーズ式ハイブリッドだが、高速巡航などモーターよりエンジンの方が効率が良い場合はエンジン直結クラッチを用いてエンジン走行を行なうホンダ独自のシステムだ。
直列4気筒2.0ℓアトキンソンサイクルのDOHC i-VTEC(145㎰/175Nm)エンジン+2モーター内蔵CVT(184㎰/315Nm)の組み合わせは従来モデルから不変だが、新型ではモーターに使われるローターはレアアースを用いないネオジム磁石を採用、パワーコントロールユニット(PCU)のサイズを15%削減、インテリジェントパワーユニット(IPU)の32%小型化で後席下への配置を実現することによるラゲッジスペースを拡大、制御の最適化といったアップデートが行なわれている。
アクセルを踏んだ時の応答の良さや滑らかなフィーリングはモーターならではの特徴だが、巷のEVや日産のe-POWERのように、「内燃機関とは違うだろ‼」といったエンターテイメント的な力強さはなく、あくまでもドライバーのペダル操作に合わせて必要なだけ力強さが増す自然なフィーリングだが、V6-3.0ℓ並みというトルクは実感できるレベルだ。ちなみにEV走行→ハイブリッドの切り替えは「お見事‼」と言え、普通に乗っていると気が付かないレベルである。
もちろん、アクセル開度が増えるとエンジン音はそれなりに聞こえてくるが、全開走行をしない限りは軽やかで雑味のないサウンドかつ車体側の静粛性の高さも相まって車格に恥じないレベルに収められている。
ただ、ひとつ気になるのは従来モデルより改善されてはいるが、車速とエンジン回転数がリンクしないフィーリングがまだ残っている点だ。実は先日試乗した新型フィットはその制御が実に良く出来ていたので期待をしたのだが……。この辺りは設計年次の違いが影響しているのだろうか? ぜひとも早いタイミングで改善を希望したいところである。
ちなみにパドルシフトはアクセルOFF時の減速度調整(4段階)に使うが、日産の1ぺダルドライブのように完全停止はしない。
フットワーク系は低重心/低慣性、高剛性/軽量設計にこだわった新開発プラットフォームに加えて、サブフレーム、サスペンション(形式は踏襲するが構造は一新)、ステアリングシステム(デュアルピニオンEPS&VGR)とすべてを刷新。ボディ/シャシー領域の一体開発に加え、数値だけの判断ではなくテストドライバーの感性も重視した設計により、「剛性」と「しなやかさ」のバランスにも考慮した自信作だと言う。
ちなみにダンパーはアコード初採用となる減衰力四輪独立制御の「アダプティブ・ダンパー・システム」を設定。加えてダンパー/パワーステアリング、パワーユニット/アジャイルハンドリングアシストをシーンに応じて3タイプ(コンフォート/ノーマル/スポーツ)に選択可能な「ドライブモード」のスイッチがシフトボタンの下側に用意される。
先代比25㎜下がったというヒップポイント。実際に座ってみるとちょっとしたスポーツモデル並だ。驚くのは後席スペースの広さで、膝前は余裕で足が組めるほど。前後方向の余裕はミニバンの2列目にも匹敵すると言っても過言ではない。
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