ソニー開発のクルマ SONY VISION-Sをじっくり見てわかるコンセプト:火曜カーデザイン特集 ソニーがクルマに向ける強烈な眼差しに期待 SONY VISION-Sをじっくり見てわかるコンセプト
- 2020/08/11
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CAR STYLING編集部 松永 大演
クルマのなかには、乗り手を挑発するものもあるが、ビジョンSはエレガントでしとやか。木漏れ日の射す中で木々を背景に走る姿は、50年も前から車を知り尽くしていたような、ゆとりすらも感じさせるのは不思議な光景だった。
Sマークから始まる形?
造形上の特徴を見るならば、まずはエンブレム。これは取材が短時間に限られ聞き漏らしたが、恐らくはSONYのSをかたどったのでは、と思う。また手を繋ぐようなイメージにも見える。さらに、左右に伸びて行くラインは周囲と繋がるといった車の新たな機能“コネクティッド”を示しているようだ。そしてラインはヘッドライトともにいったんボディの内側へ入り、フロントフェンダーの後方で再び外に出てくる。このラインはそこで消えるが、前後のドアノブへと繋がる。
外でキーを解錠すると、フロントからSマーク(?)から光りラインが後方へと順次光っていく。そしてドアノブを開くという仕組み。内側にいったん入り込むラインは、このモデルの内部が完全にエレクトリックな構成であることを教えてくれるようだ。また同時にデザイン的にもフロント周りをコンパクトに見せ、フロントフェンダーに力感を与えている。
前後それぞれ200kWのモーターを1個ずつ搭載。合計で400kWつまりはだいたい540-550psくらいのポテンシャルを持つので、遅いわけがない。そんなことをちらりと感じさせるのが、前後につけられたブレンボ製のハイスペックなディスクブレーキだ。タイヤもフロント245/40R21、リヤ275/35R21とかなりのハイスペック。
ソニーのクルマ、SONY VISION-Sに乗った、そして触った! まずはファースト・コンタクトの動画を!
ソニーの「コンセプトカー」、VISION-Sに触れる機会をえた。その動く姿は、これまでではあり得ないシーンだ。自動車業界とは...
次なるメガトレンドのなかでソニーができることとは?
今回、開発責任者であるソニー株式会社執行役員・AIロボディクスビジネス担当・AIロボティクスビジネスグループ部門長の川西泉(かわにし・いずみ)氏に話を聞くことができた。
開発のきっかけについては、
「大きなトレンドのなかで、スマートフォンの登場によりモバイルのライフスタイルの変化というのがありました。そして、次のメガトレンドってなんだろうねと考え始めた時に、モバイルからモビリティ、それは最近のCASEと言われているような100年に一度の変革期ということもありますし、EV化も大きいと思っているので、そこでソニーがやれることはないのかね、と。そういうところは発端になっていますね」
現在自動車の世界では100年に一度の変革期と言われており、その指標のひとつがCASE(ケース)という言葉で示されている。CASEとは、Connectivity=コネクティッド、Autonomous=自動運転、Shared & Services=シェアリングとサービス、Electric=電動化の4つの要素。ここでEV化なども含めて、ソニーがやれることはないだろうか、と考えたのが発端だったという。
「よく考えたら、いろいろソニーの技術を活かせる面もあると思っているので、だったら1回作ってみようという話になったのです」という。
現在でもソニーの多くのセンシング技術が、自動車も採用されている。またオーディオ技術なども含め、車内のエンターテインメントにおいても決してすでに遠い存在ではない。それら開発のベースとしてビジョンSを開発したのでは?とも考えられるが、その点については?
「ビジョンSは、現実に近い形では作っていましたけどね。センサーのデバイスの進化を見据えていく上でも、いまのリアルな世界での車の使われ方とか、走り方とか、そういうところのバックグラウンドの知見がないと、やはりできないんです。外的環境にはいろいろな要因があります。地域ごとの問題だったり、路面の状況、天候など、いろいろな要素によって変わってくる。それはシミュレーションでもある程度はできますが、やはり実際には違う。そういうところの状況を得るためには、やはり実際に走ってみるというのは重要な要素ではあります」
という。
さらに気になるのは、電子バイス、エンターテインメントまで含めたプラットフォームを販売するのでは? という考もある。
「うちのアプローチの仕方は、やはりクルマとITの融合だと思っています。そういう意味ではIT側の技術はどんどん入れられますので、プラットフォーム化するのはリーズナブルな考えだったので、そうしたというのはひとつです。しかし、ひとつ作っておくとSUVなど別の形にもできますから、そのためのベースになると思ってEVシャシーは作りました」
それにしても乗り込んで感じるのは、フロアの低さだ。この下にバッテリーがあると思うとかなり低い、というのが実感。
「それはこだわりのポイントでした。EVでもバッテリーの高さがかなりあるケースがある。SUVの場合はあまり気にならないのですが、車高の低いスポーティなものを作ろうと思うとそこは重要で、薄くしたかったですね。なるべく車高の邪魔にならない床の高さを狙いました。路面からの高さは、比較的感じないはずです。それは随分喧々諤々やりました」
クルマとしての形は開発者の思いの表れ
ソニー・ビジョンSと向き合って、この物体が明確にクルマ然として見えるのにはいくつかのポイントがあると思う。
その大きな点をこのビジョンSは備えているように感じる。ひとつには、エクステリアの見せる形が、人を室内へと招き入れようとしている。例えば、冷蔵庫も大きなドアを持つが決して中に入ることを誘う形ではない。何かを内側に貯蔵する形に見える。特に最近では外板にさまざまな素材が使われ、カラーリングも様々という点ではクルマとも共通するが、その造形からは冷蔵庫としての機能が見えている。
どんな製品であってもデザイン決定には、作り手の思いが自然と入り込むからだと思う。コンセプトモデルも含めて、ひとつの「商品」として考えるならば、消費者からどう見えるかも考える必要もある。それによって、ある程度既存の製品から感じられる「らしさ」に寄ってくるという面は、もちろん否定できない。
しかしそれ以上に重要なことは、クルマとして移動するものであること、移動を楽しむものであること、所有する喜びを感じるものであること。それらの思いによって開発されているからこそ、デザインとしてのメッセージも人をのせることを踏まえ、室内へと招き入れる造形としての要素が備わるのだと思う。
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